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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)3308号 判決 1985年1月30日

控訴人 三浦敏秀

右訴訟代理人弁護士 長田喜一

同 岡田康男

被控訴人 国

右代表者法務大臣 島崎均

右指定代理人 立石健二

<ほか三名>

被控訴人 社団法人東京都小型自動車整備振興会

右代表者理事 石塚秀男

右訴訟代理人弁護士 鈴木多人

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金八一七万九〇〇〇円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨の判決と仮執行の宣言を求め、被控訴代理人らは、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人主張の請求原因1の事実中、東京陸運局長が訴外伊藤勇二に対し昭和四二年四月二〇日普通及び小型自動車分解整備事業の認証をなしたことは当事者間に争いがなく、同2の事実中、右認証が当時の認証基準に適合せず、違法であったことを除くその余の点は、被控訴人らの明らかに争わないところである。

そして、《証拠省略》を総合すれば、控訴人は昭和三九年その主張の控訴人所有建物一階駐車場の一部を右伊藤外一名に賃貸したが、その範囲は本件建物部分(面積は、三二、六三平方メートル)であったことが認められる。

ところで、《証拠省略》を総合すれば、伊藤勇二が右認証申請にあたり、東京陸運局長に提出した申請書(認証番号一―七三四〇)の記載には、本件整備事業場面積は、本件建物部分を含め、屋内作業場面積七八平方メートル(車両整備作業場六〇平方メートル、部品整備作業場一八平方メートル)、屋内車両置場面積三六平方メートル、総数地一二〇平方メートルとされており、東京陸運局長は、右申請が当時の認証基準に適合するものと認めてこれを認証したものと推認されるので、右申請書は、伊藤らが控訴人から賃借した本件建物部分の範囲を越えてその整備事業場の面積が存在するものとして記載し、これを前記陸運局長に提出したものというべきである。

しかしながら、《証拠省略》によれば、伊藤らが前示申請手続をするにあたっては、控訴人を代理して伊藤らと本件建物部分の賃貸借契約を締結した控訴人の駐車場管理人門田某において、賃貸借の範囲は、兎も角、認証申請手続上は、伊藤らが申請書記載範囲の面積部分をその整備事業場として使用できるものとして取扱うことを承認のうえ、申請書添付の賃貸借契約書の作成に応じ、被控訴人振興会の現地調査にも立会うなどして、協力したことが窺えるのであって、これと《証拠省略》を総合すれば、右認証申請に対し、被控訴人振興会は申請書類を審査し、現地調査を経たうえ、右申請が認証基準に適合しているものと認めて東京陸運事務所に進達し、東京陸運局長により本件認証がなされたものと推認され、その間の手続に通常の場合と特に異った点があったものと認める資料はないから、被控訴人振興会の職員が必要な調査を怠って、伊藤に対して適切な指導をせず、また、東京陸運局長も十分な調査をすることなく、違法な認証をなしたものと認めることはできない。

二  次に、東京陸運局長が保安命令等の措置をとらなかったことの違法性について判断する。

控訴人主張の請求原因4の事実中、控訴人が昭和五三年七月頃から数回にわたり東京陸運局の係官に認証基準違反の苦情を述べた結果、同局係官が控訴人主張の如き立入検査をしたことは当事者間に争いがない。

右事実と《証拠省略》によれば、控訴人は、昭和四九年一二月二四日東京地方裁判所に右伊藤らを被告として本件建物部分の明渡を求める訴訟を提起したのであるが、同訴訟で控訴人は駐車場として賃貸したものであると主張し、伊藤らは自動車分解整備事業に用いるものとして賃借したもので、東京陸運局長から右事業の認証も得ている旨主張し、用法違反の存否が争いとなり、控訴人は、本件建物部分のみでは認証基準に適合せず、右事業をなし得ないとして、右訴訟の係属中、昭和五二年二月頃から再三にわたり、被控訴人振興会、東京陸運局東京陸運事務所を訪れ、伊藤の事業場につき認証基準違反を指摘して苦情を述べ、その調査方を要請したこと、そこで東京陸運局の係官は、昭和五三年九月二八日伊藤の事業場を立入検査したところ、工場部分と駐車場との判別が明瞭でなく基準違反の点は必ずしも明らかではなかったが、更に控訴人の申出に基づき昭和五四年一月三〇日再度立入検査したところ、本件建物部分とその余の部分との間に控訴人がベニヤ板の間仕切工事をしてあって、右整備工場が基準に適合しなくなっていることが判明したのであるが控訴人と伊藤らとの間に訴訟が係属中である事実を考慮し、伊藤に対しては、路上整備、路上放置等しないよう厳重指導するとともに、早期に紛争を解決して不適合状態を解消すべき旨指示して、事態を静観し、陸運局長としては右措置以上には道路運送車両法九二条の保安命令を発する等の措置はとらなかったことが認められる。

ところで、道路運送車両法の立法目的(同法一条参照)や認証制度の趣旨に鑑みると、認証をうけた事業者に同法及び同法施行規則に定める認証基準に不適合がある場合に、陸運局長が如何なる措置をとるべきであるかは、その合目的的な裁量に委ねられており、かかる場合に、同局長に直ちに保安命令等の強制的措置をなす義務があるものとは解されないのであるが、右認定の事実関係特に外形上認められる伊藤における基準不適合の事実は、本件認証後十年以上経過して発見され、しかもそれは控訴人による伊藤らに対する建物明渡請求訴訟の係属中に、家主たる控訴人が一方的に設置した間仕切の存在によって始めて明らかとなった等の点に鑑みると、本件において陸運局長がとった前示措置は、その裁量権の範囲内のものであって、保安命令等を発しなかったことをもって、控訴人に対する違法な加害行為ということはできない。

三  そうすると、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべく、これと結論を同じくする原判決は相当であって本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 安部剛 笹村將文)

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